映画化もされた、谷村志穂さんの恋愛小説「海猫」。美し過ぎて周囲から孤立してしまう、孤独を抱えた混血の野田薫がヒロインです。
海猫あらすじ
彼女が嫁いだのは、豪快な漁師の邦一でした。夫との生活の中で、初めて自分の居場所を見つけたと思ったものの、時が経つにつれ、少しずつすれ違いや、違和感が。
そんな薫を、嫁いだ時から秘かに見守り続け、陰日向なく支えてきたのは、義弟の広次でした。
何の見返りも求めず、いつも自分と娘を支えてくれる義弟に、いつしか薫も特別な想いを抱くように……。
美しく哀しいヒロイン・薫
この作品の最大の魅力は、どこか危うい美しさを持つヒロイン・薫です。
彼女は日露ハーフの父と、日本人の母の間に生まれたクォーター。透き通るような肌に淡い目、あまりに際立った美貌を持つせいで、いつも、どこにも溶け込むことが出来ずにいました。
そして、孤独に負けまいとする強い心と、安心出来る場所を求める弱く危うげな心の、両方を持っています。
男達はそんな彼女に惹かれ居場所になりたいと願い、それが上手くいかず煩悶したり、逆に身を引かなければと苦悩したり。
薫自身も上手く扱えない繊細な心が、彼女の不思議で危うい魅力です。
邦一と広次。対象的な、二人の男
薫の夫である赤木邦一は、豪快な海の男です。たくましい体躯と漁の腕、そして若々しいエネルギー。
彼はいつも心細げな薫に惹かれ、自分なら彼女に幸せを与えられると求婚します。それは上手くいったように思えたものの、だんだんとお互いにすれ違いが……豪快な邦一には、薫の生真面目さや、ひたむきな心のありようが、理解出来ないのです。
愛情はあるけれど、上手くいかない。
そこを埋められるのは、皮肉なことに弟の広次でした。
漁師でありながら深い信仰を持ち、繊細な心の広次。
兄嫁である薫が抱える寂しさや違和感を、誰より理解出来るのは、義弟でした。
愛し方も正反対な兄弟
夫の邦一は逞しく豪快で、でも薫の心の機微を理解出来ません。またあまりに美しく、ひたむきな心を持つ妻に、時に息苦しさを感じています。
対象的に、誰より薫の感情に敏感なのは、弟の広次。嫁入りの日に初めて薫を見た時から、彼の心には兄嫁へ対する、信仰にも似た憧れが芽生えました。
夫とのすれ違いで悩む時、初めての子を出産した時。薫を支えたのは夫ではなく、義弟の広次でした。
何も言わず、何も求めず。
どんな時も影のように自分を支えてくれる義弟に、いつしか薫も言い様の無い安らぎを感じるようになっていきました。
しかしそれは、許されない恋の始まりでした……。
そして、三人の関係には変化が……
あくまで兄嫁と義弟の節度を守っていた、薫と広次。
しかしお互いに惹かれ合う心を止められなくなった時、二人は距離を置くことを選びました。取り返しがつかないことになる前に、踏みとどまろうとしたのです。
ですが離れたことで逆に、はっきりと互いへの想いを再確認した二人は、互いの意志で一線を越えることを決意しました。
夫を、兄を裏切ることになると承知の上で……。薫は広次に抱かれ、夫からは得られなかった、深い幸せを感じます。
広次は薫と、姪である彼女の娘を連れて、どこまでも逃げようと告げますが……。
薫が彼の子を身籠ったことで、事態は急変します。
妻を離したくない邦一は苦悩し、やがて狂気染みた行動は、エスカレートし広次は、薫と姪を連れて逃げようとしますが、果たして、その結末は……。
母、そして娘達。周りの女性達も魅力たっぷり
薫は勿論、彼女の周囲の女性達も、とても魅力的です。
まずは、薫の母・タミ。
家族の反対を押し切り、混血男性と結婚した彼女は、未亡人になってからも女手一つで働き、子供達を育てました。儚げな娘と対象的に、逞しく肝の座った女性です。
そして、薫の二人の娘達。
邦一の娘・美輝は、母そっくりの美貌ながら、祖母に似た強い心の持ち主。両親の忌まわしい事件に負けず、周囲の好奇の視線や、同情をはね除ける強さがあります。
そして、広次の娘・美哉。
素直で甘えん坊な彼女は、不義の子として生まれた後ろめたさと、親を知らない寂しさを秘めています。
第二部は、この姉妹が主人公
両親の事件を乗り越え、二人が自分の生き方や幸せを見つける、清々しい青春小説です。
タミから薫、そして娘達へ。
海猫は、異なる生き方を選んだ女三代の、大河恋愛小説と言えるでしょう。また、映画化もされているので、どちらも是非見ておきたい作品です。
主要キャストはこちら
野田(赤木)薫:伊東美咲
赤木広次:仲村トオル
赤木邦一:佐藤浩市
野田美哉:蒼井優