見返り峠あらすじ
井川香四郎の好評シリーズ、くらがり同心裁許帳、十五巻ある内の第六弾の話になります。短編が四作品入っているものでシリーズの中でも大岡奉行が比較的多めに登場します。シリーズ通して全体的に読みやすく楽しい作品集となっています。内容として御赦免花が咲いて江戸に戻ってきた鎌吉が辻斬りに合い惨殺されます。
下手人が分からず迷宮入りされますが、鎌吉の妹から兄を逆恨みしていた女がいたという報告を聞いて同心の角野が動く、という話を始め人情溢れる内容となっていて一編ずつ読み切りとなっているので空いた時間にでも読み続ける事ができる作品です。作品の中に登場する季節の食べ物を食す場面も見どころのひとつ。
川本夫妻のあり方を読む『めでたい泥棒』
旗本の家来・川本駿吉と堀で出会った忠兵衛冒頭は角野忠兵衛が深川の堀で釣りをしている場面から始まります。
よく会うのでと親しく話しかけられて弁当を勧められて食べたら美味しかったと褒めるのに何も出ないと笑い話にします。そこで旗本の家来だと言われて忠兵衛は驚きます。それでも自分は養子で気の強い妻と男ばかりの子供たちを養うのは大変だとしみじみ語る川本に忠兵衛も頷きます。
そんな中で川本は食べた饅頭に鼠退治の石見銀山が入っていると冗談を言われて驚いたり井戸端に隠してあった千両箱を見付けたりと事件に遭遇します。そこに訪ねてきた忠兵衛によって泥棒でもいるようだと疑われますが身元は証明されて無事に助けられます。
その後、川本は妻にいろいろとバレてしまい尻に敷かれている場面になって最終的には百足の鬼蔵という不逞の輩とのいざこざもあって事件の解決へと話が続きます。忠兵衛にとってこの川本と出会った事から始まる物語が人情味溢れています。
真実を知るために忠兵衛が向かった先に合ったものを読む『見返り峠』
御赦免花が咲いた時に起こった事件の真相に迫る。物語は釣りの話から始まります。
忠兵衛が釣れないと悩んでいるところに現れた老人がいとも簡単にヤマメを三匹釣りあげて凄い腕だと見上げたら姿は見えなくなっていて高尾の天狗ではないかと言われるエピソードが印象に強く残ります。その後に島帰りの遊び人である鎌吉が辻斬りに合い殺されてしまいます。そのためがまともな取り調べもなく迷宮入りにされてしまいます。
それに異論を唱えたのが妹です。兄の鎌吉は腹いせで罪を着せられただけでなく、御赦免で戻ってきてからは真面目に油売りの仕事をしていたというのにあんまりだと訴える妹の姿に忠兵衛も動きます。
真相を洗っていくうちに分かったのは、鎌吉は真相が定かではないのに罰せられたのかもしれないと。鑑定が人の采配ひとつで決まる時代なので思い込みのせいで冤罪も生まれて人の恨みを買う事の怖さがよく分かります。そんな中でも忠兵衛の人を思う気持ちが温かく感じられる描写を読める作品です。
謹慎中に大岡を助ける忠兵衛の動きを描いた『泣くな名奉行』
大岡越前の悲しい裁きを読む。この話も冒頭は食べ物の話からなります。
忠兵衛が夏を乗り切るために鰻を食べようとしたところへ火事だと騒ぎになり食べ損ねてしまいます。しかし問題は大火事を起こしてしまった責任が大岡に掛かってしまったというところです。大岡は大火事の責任を取らされて謹慎処分になってしまいます。町奉行を謹慎させるなんて、と思いつつも北町の同僚が助けてくれるので仕事にそこまでの支障はでません。
忠兵衛はそんな中で大岡に呼び出されます。火事の事、火事によって死んだ板倉真之介につて調べろと言われて嫌そうにします。鰻を食い損ねた事を拗ねているところは人らしくて好感が持てる場面です。
そして調べていく内に火事の時に油の匂いをさせて付け火の疑いを掛けられていた男の名前に大岡は心当たりがありました。十数年以上前に同じ道場で汗を流した友人で、ちょっとした行き違いで大事になってしまい最終的には斬られて死んでしまいます。
この時代ならではの行き違いから命を落とす羽目になってしまう悲しい話です。